2016/10/28
シェクナーの今週の授業のことが、数日経ってもなかなか頭から離れない。ジャドソン・ダンス・シアターの話。多少知った気になってはいたが、学生の発表と映像を見ながら、1960年代にはここまで行っていたのか、とちょっと呆然としてしまい、いまだにどう考えていいのかよくわからない。
コンタクト・インプロビゼーションという実践自体は日本でも広まったが、その背景にあるジャドソン・ダンス・シアターの思想やイヴォンヌ・レイナーの「ノー ・マニフェスト」(1965)については比較的触れられることが少ない(レイナーについては、木村覚さんや武藤大祐さん他による研究がある)。
No to spectacle.
No to virtuosity.
No to transformations and magic and make-believe.
No to the glamour and transcendency of the star image.
No to the heroic.
No to the anti-heroic.
No to trash imagery.
No to involvement of performer or spectator.
No to style.
No to camp.
No to seduction of spectator by the wiles of the performer.
No to eccentricity.
No to moving or being moved.
身体をモノとしてみること。それ以外のものとして見ることを徹底的に拒否としてみること。あらゆる神話を、あらゆる表象をそぎ落とされた身体を享受すること。しかし、そんなことが本当に可能なんだろうか。シェクナーはこれをダダイズムと比較したりもした。
あちこちでいろんな話を聞いている中で、なぜこんな話が出て来たのか、ということはちょっと分かるような気がしてきた。一つには、ニューヨークにはブロードウェイがあるということ。商業的な舞台芸術の極北ともいえるシステムが確立していたために、それをいわばアンチモデルとして、それとは全く異なるものを作りたいという意識があったのは確かだろう。逆に商業的な舞台芸術のシステムに乗ろうとしなければ、上演によって報酬を得てプロとしてやっていく、ということはニューヨークにおいては全く考えられなかった。以下のレイナーの手紙によれば、少なくとも1960~64年にはそんな状況だったようだ。
若いアーティストへの手紙/イヴォンヌ・レイナー(訳:中井悠)
http://nocollective.com/transferences/rainer/letter.html
そしてアメリカでは1950年代末からテレビが急激に普及しつつあった。もちろんこれについても、米国は世界の先端を行っていた。フレデリック・マルテルの『超大国アメリカの文化力』によれば、米国の知的エリートによるテレビへの反発と恐れが60年代以降の文化政策の大きな要因の一つになっていた。ニューヨークに来て驚いたことの一つは、アカデミズムにおけるフランクフルト学派、とりわけアドルノの影響の大きさである。これはもちろんアドルノが10年近く米国に亡命していたこともあるが、米国の中において、今に至るまで、これだけ大衆文化を批判する理論に興味を寄せている人が多いというのは意外だった。1960年代の米国の先鋭的文化人は、自国の大衆文化を批判しつつも、ヨーロッパ的なエリート文化をも批判し、米国独自の新たな民衆的文化を創造する、という極めて困難な課題を引き受けていた。イヴォンヌ・レイナーのマニフェストは、ある程度この文脈で理解することはできるだろう。イメージの消費文化は徹底的に拒否しつつも、特異な形で物質文化を徹底的に肯定してみること。
シェクナーから、このジャドソン・ダンス・シアターの遺産は、今どのように受け継がれているのだろうか、という問いが発せられた。ある意味で直接の継承者といえるのは、もちろん今でも毎週月曜日の夜にジャドソンチャーチに集っている「ムーブメント・リサーチ」はある。ジェローム・ベルやグザヴィエ・ルロワといった名前も挙げられたが、今一つピンとこない。議論のあと、シェクナーが最後に「少なくともこのあと、正しい道、間違った道というのはなくなったのではないか」と言っていた。レイナーが示した道はあまりにも険しく、その先に本当に道があるのかもよく分からない。だが、その荒野を歩いてみた人がいたということ自体は、何かしら希望になるような気もする。
Yvonne Rainer, Trio A (1966振付, 1978にソロで再演)
https://www.youtube.com/watch?v=TDHy_nh2Cno
http://www.getty.edu/research/exhibitions_events/exhibitions/rainer/
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