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1960年代米仏の実験的演劇の製作状況について(5) 「偉大な社会」のための人文学と芸術 2017年3月21日

2.米国における実験的演劇の製作状況

(承前)

2.3.人文学と芸術

ケネディ政権は議会との対立もあり、「文化政策」を具体的に推進することはできなかったが、ジョンソンはケネディとは対照的に、議会との駆け引きに長けていた。ジョンソンは連邦政府による芸術活動への支援に対して議会の支持を得るために、「芸術」と「人文学/教育」を抱き合わせにする、という戦略を採った。ジョンソン政権のモットーは「偉大な社会(グレイト・ソサイエティ)」。就任直後の大学での演説で、ジョンソンはこう語っている。「「偉大な社会」においては、子供一人ひとりが知識を得て、精神を涵養し、才能を伸ばすことができる。…人間の営みは、身体的な欲求や商売上の必要を満たすためだけでなく、美を求める気持ちに応え、共同体の感覚を養うためにも役立つことになるのだ」。ジョンソンは「貧困に対する闘争」の一環として、教育に力を注いだ。そして大学教育における人文学振興のための全米人文基金と芸術振興のための全米芸術基金を合わせた「全米芸術人文財団」を創設させる法案を議会に提案する。これによって、「芸術」は東海岸だけの問題ではなくなり、全米の大学関係者の協力も得られるようになった。一九六五年、ついにこの法案が可決され、ホッパー、フランク・キャプラ、グレゴリー・ペックらも参列して式典が行われた。(p. 71-88)

・・・というと、非常に大きな支援が生まれたかのようだが、これだけ大がかりに演出したわりには、予算規模はそれほど大きなものではない。初年度の予算はわずか250万ドル。

THE NATIONAL ENDOWMENT FOR THE ARTS: A BRIEF CHRONOLOGY OF FEDERAL SUPPORT FOR THE ARTS

https://www.arts.gov/sites/default/files/NEAChronWeb.pdf

それから半世紀を経て、全米芸術人文財団の予算は格段に大きくなったのだが、それでも昨年の予算では全米人文科学基金と全米芸術基金の二つを合わせても約30億ドルで、連邦予算の0.003%を占めるに過ぎない。トランプが求める「偉大なアメリカ」はジョンソンのものとはだいぶ異なるらしい。彼は今年の予算案で全米芸術基金と全米人文基金の廃止を打ち出しているが、予算規模では軍事費予算の増額分523億ドルとは全く比較にならない(全米芸術基金の予算はトランプタワーの警備費用よりも小さいという)。歴代大統領が、「保守革命」を進めたレーガンですら、全米芸術基金の廃止に踏み切らなかったのは、予算規模以上に、これに手をつけると手強い相手を敵に回すことを知っていたからだ。トランプはアーティストや学者まで「既得権層」と見なし、むしろ象徴的な効果を狙っていると考えるべきだろう。これは対岸の火事と思わない方がよいかも知れない。

トランプ大統領、全米芸術基金や全米人文基金の廃止を連邦政府予算案で提案

http://dorianjesus.cocolog-nifty.com/pyon/2017/03/post-478d.html

(つづく)

カテゴリー: ACC 文化政策 米国演劇

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