「(明治時代の社会では、)「かんばればかならず成功する」という「通俗道徳」の考え方がひろまっていました。「成功するためにはがんばらなければならない」からといって、「がんばれば必ず成功する」とは限らないので、「がんばったのに失敗した」あるいは「がんばったのに貧困から抜け出せない」人びとが膨大に発生します。しかし、そうした人びとはがんばりが足りなかったとみなされ、「ダメ人間」のレッテルが貼られてゆきます。
・・・明治時代の社会と現在を比較して、はっきりしていることは、不安がうずまく社会、とくに資本主義経済の仕組みのもとで不安が増してゆく社会のなかでは、人びとは、一人ひとりが必死でがんばるしかない状況に追い込まれてゆくだろうということです。そして、「がんばれば成功する」という通俗道徳の罠に、簡単にはまってしまうと言うことです。それを信じる以外に、未来に希望が持てなくなってしまうからです。
・・・「通俗道徳のわな」は、どこかで悪い人が作って仕掛けた罠でもありません。不安な人々が、不安だからこそ、ついつい頑張ると言う選択を積み重ねた結果、自分たちで、自分達の作った仕組みにとらわれているのです。
「通俗道徳のわな」が、リアルな罠ではなく、人間が自分で作って、自分ではまり込んだ仕組みに過ぎないこと―そのことに気がつくことは、それ自体がわなから逃れるための、欠かせない一一歩です。」
中高地歴部の盟友松沢裕作さんの新著『生きづらい明治社会―不安と競争の時代』(岩波ジュニア新書、2018年9月20日第一刷発行)、名著です。
ぜひ『野外劇 三文オペラ』を見る前に読んでいただきたい一冊。(新幹線が止まったおかげで、東海道線のなかで一気に読めました。)
松沢裕作『生きづらい明治社会―不安と競争の時代』 へのコメントはまだありません
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